冬のクワガタ(1) [空想中野日記]
1.春の引越し
「北の窪地に川を臨む高台に住めば吉」などと言われた覚えがある。十年ほど前だったか。当時、つき合っていた彼女と、飲んだ帰りに勢いで寄った辻占で、数百メートルは続く飲み屋街の角々に数人いた。とはいえ、もうずい分記憶もあいまいであり、その彼女とも別れてしまったので、今や確かめようもない。中野区の新井に越して来たのは、その頃。そういえばここは、その占い師によれば吉方なのか、と思ったりした。意識してはいなかったけど。
引越しは春で、だから中野通りの桜並木は満開。少し盛りを過ぎた頃で、忙しく花びらを散らしていた。桜並木から、西武新宿線の踏み切りを通過する電車を見て「花電車みたいだ」と思ったけど、「花電車というのとは違うな」と思い直した。
「湯豆腐お待ち」
注文していた湯豆腐がカウンターに置かれたので、読みさしの「夏への扉」から目を上げた。ずい分、唐突なことを思い出していたなぁと、ふとおかしくなった。とはいえ、居酒屋で飲みながら本を読み、とりとめもないことを考えるのは、よくあることだった。思索にふける、というほどのものではない。
空いた店内は適度な広さの、ほどよい明るさで、思索にふけるのもいいかもしれない、とも思う。豆腐をはしでくずす。この店の湯豆腐は木綿を使っているところが気に入っていた。豆腐を、しょう油と酒を煮詰めたタレにつけて口に運び、ジョッキに手をかけると空いてしまっていることに気づいた。
「氷ください。それと山芋千切り」
店主の宮さんに声をかけ、棚に置いてある自分の芋焼酎のボトルを取りに立ち上がった。宮さんは、氷とロックグラスを置くと狭い厨房で、長い手足をもてあますように大きく腰を割り、まな板の上で山芋をきざみ始めた。
(続)
おはようございます。わ〜、sakamonoさんも投稿されるんですね(^^)うきうき。
今後の続きも楽しみにしています。お互い、残り少ない日数、頑張って行きましょう(^^)
by はりなたる (2006-01-26 08:48)
おや、新しいカテゴリーが、と思ったら創作なのですね。
GBAってなんなのか、今回やっと調べてわかりました。
湯豆腐と『夏への扉』のアンマッチな感じがおもしろいです。
by はてみ (2006-01-26 20:26)
>はりなたるさん
いやぁ~、読書は元々好きだし、なんかやってみたいなぁとは思ってましたが...(-_-;)。はりなたるさんを始め、他の方々のGBA作品を読んでるうちに、つい出来心で...(^.^)。
>はてみさん
創作なのです(ブログタイトルにも「創作」の文字は入ってますが)。よろしければ読んでやってください(^.^)。2つもコメントが入ってうれしい(^.^)。
by sakamono (2006-01-26 20:57)
sakamonoさんの小説を、初めて拝読させていただきました。すごい、最初の一文に引き込まれる。それって、すっっっっっっごく、大切な事だと思います。
全体に純文学調で、たいへん雰囲気のある文体ですね。私も含め、酒呑みにはタマラン描写です。
ところで、sakamonoさんは会話の後を改行しない文体なのですね?すごく新鮮でした。
さてさて、この後ストーリーがどう展開していくのか、期待は高まります。・・・
by 葵 (2006-01-26 22:22)
>葵さん
とうとう、やってしまいました(^.^)。とりあえず書けても、それを持続するのってすごくタイヘンな気がします。軽~い感じで読んでください(^.^)。記事をアップした後見たら、改行した方が読みやすいなぁと思いました。
by sakamono (2006-01-26 22:56)
続編を期待しております。
この文学賞って、締め切りまであと一週間もないのですね(^^;)。
by 葵 (2006-01-26 23:00)
>葵さん
あ、GBAのページ見ましたか。目指せ茶川リュウ之介!
by sakamono (2006-01-26 23:49)
読み始めたころからsakamonoさんのブログタイトルが謎でした。記事はフィクションには思えないけれど創作なのかしら?「*」はどういう意味なのかしら?って。
by はてみ (2006-01-26 23:59)
>はてみさん
当初、「日記風のお話」みたいにしたいなぁ、と思い「創作」とつけました。川上弘美さんの「椰子・椰子」みたいに。で、伝わるでしょうか?しかし「創作」はなかなか難しく普通の日記になりました。ノンフィクションです(^.^)。「*」は、特に意味はありません(-_-;)。
by sakamono (2006-01-27 00:42)
sakamonoさん、今晩は♪
運って、有ると思います。
四つくらいに分けられるでしょうか?
つまり・・・
運が強くて、運が良い人。
運が強くて、運が悪い人。
運が弱くて、運が良い人。
運が弱くて、運が悪い人。
オイラは、運が弱く、悪いので
最悪です(^^)。
http://chimugukuru.at.webry.info/
by ちむぐくる亭 (2006-01-27 03:46)
>ちむぐくる亭さん
おぉ、なんだか含蓄のあるお言葉。ありがとうございます(^.^)。
自分はどうなんだろ、と考えると強くも良くもないようで...
by sakamono (2006-01-27 05:34)
こんなのもまたいいかもしれませんね。
さて、「夏への扉」は好きな人が多いですね。
私はもちろん嫌いではないのですが、他にもいいSFは多いと思ってしまって。
by 春分 (2006-01-29 14:00)
>春分さん
「いいかもしれない」という言葉だけでうれしいです。
「夏への扉」を読んだのは、もう20年以上前。ストーリーもおぼろです。あの頃はハヤカワSF文庫をしょっちゅう読んでました。
by sakamono (2006-01-29 22:42)